詩人 司茜

「おっちんして」 『山脈 第二次第八号』初出二〇一二年十月十日山脈会発行
「二上山」「へいわ」 詩集『塩っ辛街道』所収。



おっちんして


おっちんして
ひとりでに
せんたくもん たたんでいる
きょうのゆうぐれも

かあさんに
ごはんのときには
ちゃんと おっちんしてたべなさい
いつもおこられていたが
せんたくもん たたむとき
おっちんしなさいと
おこられたおぼえはないが

えんかにもならない
つれあいとのくらしの
ごじゅうねんの
ねまき はらまき しゃつ ぱんつ
すててこ くつしたなど
ざらざらの まのびした
せんたくもん
おっちんしてたたんでいる

テレビは
わかさのおおいげんぱつ
3ごうき につづいて
4ごうき
きょうあさ6じ りんかいにたっした
25にちには フルかどうする
よていと しゃべっている
そのうち たかはまげんぱつもと
しゃべりだすに きまってる
おかしくはない
なさけなく
かなしい

ああ
あのころにもどれるものなら

しゃわりしゃわり うちよせる
なみのおとききながら
おひさんとしおかぜあびた
きふるしたゆかたでぬった
おむつを
おっちんしてたたんでいる

むすこは
てんじょうから ゴムでつるしたおしゃぶりで
てあしぱたぱたさせ あそんでいる
つれあいは
いちにちおくれの しんぶんよんでる

こんやのおさけのあては
つってきたばかりの

ぴかぴかの
いかのおつくり

げんぱつドームなんてなかった
わかさのいきどまりのむらの
ゆうぐれの

                    ( 二〇一二・〇七・一九 )

        *おっちん――正座する
        *ひとりでに―自然に



二上山


 わしなあ
 あの夕日みとると
 おとこのくせに
 涙でてくるねん
 おかしいやろ

 そんなことあらへんで
 わしかって
 でるで

 そうかあ
 安心したわ

 どっかで飲まへんか

電車は
近鉄橿原線
新の口(にのくち)あたりを
走っている

二上山の
たそがれ時



へいわ


へいわ って なに
九歳のタカオに聞く

 うーん
 せんそうのないこと


へいわ って なに
十四歳のユキコに聞く

 うーん
 いじめとかないこと

辞書に
へいわ って なにと聞く

 おだやかにおさまること
 と言う

へいわ って なに
陽だまりの
野良猫に聞く

 寝たふりをしている

紅葉の木の切り口から
南天の木が生え
一メートルにも育って
付近の人たちを喜ばせています

大きく育ってくれるといいですね

ラジオは
しゃべっている

私は
半紙に
愛と書く





著者略歴
司茜(つかさ・あかね)
一九三九年 大阪府布施市(現東大阪市)に生まれる
一九四四年 母の郷里である福井県高浜町に疎開
一九九二年 大阪文学学校に参加
一九九四年 詩集『若狭に想う』書肆青樹社刊
二〇〇二年 詩集『番傘をくるくる』洛西書院刊(日本図書館協会選定図書)
二〇一〇年 詩集『塩っ辛街道(しおっからかいどう)』思潮社刊 第22回富田砕花賞受賞
日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本ペンクラブ会員
日本現代詩歌文学館評議委員
「風鐸」発行人、「山脈」「若狭文学」同人

掲載されている詩の著作権は、詩の作者に属します。

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