高畑耕治『死と生の交わり』


交わり


あなたを わたしはわすれない

わたしの思い 生きている思いを
うちから息づかせ励ましてくれるひと
わたしが生きているかぎり
わたしが死んだり 屍のように生きのびるのではなく
生きているかぎり わたしとともにあるひと

今 しかない
記憶さえ わたしの今の姿でしかないから
そばにいることはなくても
あなたが生きている思いと わたしが生きている思いは
今 交わることができる
死んだあなたの 死に生きたあなたの
生きていた 生きた 思いが
今 生きている わたしと 交わる

 瞬間は
 けっして 消えさりはしない

あなたが死に
わたしがこわれることに生きるとき
わたしのうちに わたしとともに
あなたが 息づいている
失われてしまったのではなく
失われたあなたをおいもとめるのではなく
のぞむ わたしの思いに
あなたが 生きている

瞬間を よろこびと感じるときでさえ
よろこびは かなしみとかぎりなく近い
いっぱいにかなしみをふくみこんでいる
 光にとけこむ葉
瞬間を かなしみと感じるときでさえ
かなしみは よろこびとかぎりなく近い
いっぱいによろこびをふくみこんでいる
 雨にふくらむ葉

 瞬間は
 けっして消えさりはしない

ただ一度 ひとりきりの生を生きる けれど
ひとりきりの生を生きるひとは いない
わたしの思いに わたしをきざみつけながら
あなたの思いに わたしをきざみつける
あなたを感受性に抱いて生き
あなたの感受性に抱かれて生きる

ただ一度 ひとりきりで死んでいく けれど
ただ一度 ひとりきりで死んでいくひとは いない
わたしだけの思いとともに消えていき
あなたの思いのなかで あなただけの思いとともに消えていく
あなたを抱いて 死に
あなたに抱かれ 死んでいく

生きている思いしかない
死をまえにした 生きている思いしかない
死をまえにした 生きている思いと生きている思いの
時間と空間をこえた 交わりしかない



「 交わり 」( 了 )

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