高畑耕治『死と生の交わり』


それでも

自殺したひとに ひとりのひとに


 あなたは<今や何ものも信じない、自己さえも>と書き、死んだ。
 僕は<僕は何ものも信じない>と書く願望を抱き続けていた。
 その言葉は、あなたの言葉が僕に食い込んだ今では、うそでしかない。あなたにとってその言葉が真実のものであったような響きを持たない。
 あなたは死に、僕は生きている。
 <自分さえ信じられない>と口にしがちな僕は、自尊心と傲慢さにささえられ自分を信じているのかもしれない、自分の生に執着している無意味な生を延ばしている。
 あなたは<生は妥協の連続だ>と言い、それを拒み、死んだ。
 妥協を断ち切り、逃げ場を捨て去り、自分のうちに生きた。
 僕は<生は妥協の連続だ>と言い、それを拒みきれず、生き延びている。
 僕は逃げ場をもっている、それを捨てきれず、つらくなれば逃避する。
 僕の生は、欺瞞と妥協にみちた無意味な惰性?

 生きることは 妥協の連続だ
 それでも 僕は
 生きようとする
 その先が死でしかなくても
 死を凝視する意志的な模索が
 生を 生きた創造の時間にする

 あなたは孤独な真実の創造をした
 けっして消えさりはしない
 あなたの響きは 宇宙の時間のなかで
 あなたが創り出し あった
 孤独なひとりの人間が
 生きた時間
 あなたが創り出した
      意味を与えようともがいた時間

 人間にはそれだけしかできない けれど
 人間にしかそれはできない



「 それでも 」( 了 )

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