高畑耕治『死と生の交わり』


交わり ひとりであること

(2)


わたしが会うことのない
目に姿がうつることもない
耳に声が流れこむこともない
あなたが
死んでいく
 韓国で二十二歳の あなたが
 焼身自殺した

わたしは
泣かない
 ほんとうか? 泣けない、涙が流れないんじゃないのか?
わたしが泣いても
死んだあなたには何ものでもない
あなたは赦してはくれない
 ほんとうか? 泣けない、涙が流れないんじゃないのか?
あなたを
一瞬の涙で
わたしを慰める涙で
流しさりたくはないから
わたしの一瞬の涙など
あなたの思いを
何もうつしだしはしないと感じるから
あなたの思いを
すこしもふくんではいないと感じるから

わたしは 泣かない
わたしのからだのなかに わたしの思いのなかに
たまりこむ 涙の重みに
耐える

わたしがみつめるとき にごった瞳をあらいながす
あなたが いる
わたしが耳をすますとき かれた鼓膜にみずみずしく響きをすいとる
あなたが いる

わたしは 泣かない
たまりこんだ涙で わたしが
こわれる ことだけが
そのときあふれでる
 膿のような 尿のような 血のような涙だけが
わたしには 信じられる
その涙のなかに
あなたの思いを
ふくみこんで

わたしも こわれ流れでたい
あなたを抱いて
誰か 生きている ひとの
たまりこんだ涙のなかに



「 交わり―ひとりであること ( 2 ) 」( 了 )

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