高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』


うたの花



ひとつ

花がしおれちゃった
もってきて 生きかえるから
え?
しらなかった? 生きかえるのよ
根を抱く土を落とさないよう
てのひらにつつんで もってきて



ふたつ

こんながれきのなかすめない
まるでドライフラワー 乾ききって
からから風に鳴いてる
水のひかりをください
なにもしなけりゃ枯れちゃうわ
あたりまえよ 水あびなさい
こころのすみずみにはっていた根
しがみついたままちぎれた根
なにをすてたの? なくしたの?
うしなうものがもうないなんて うそ
みすてたのはあなたじゃない?
かなしい記憶の水おとに ひたひた
ちぎれた根を浸していたい なにも
すいあげられない根 水のなか
ひらひら
息をとめて生きていたい
水中花になりたい



みっつ

生まれたときから
砂漠がすみか 気がついたら
そこにはえてた あたりには
なんにもない
砂漠にはりつく サボテン
とげだらけ
あなたにもわたしにも
愛がないのよ 花が
咲かない
愛せないひとが花を
育てようなんてしちゃだめよ
枯れてしまってかわいそう
ぼくはもう
枯れようがないね
水はどこにもないね もう
落ちようがないね 風に吹き飛ばされ
はふはふ空をのぼってゆきたい
青空に咲いている 雲の花になれるよう
ねがいながら
さぼてんさびしいさぼてんしゃぼてんしゃぼんだま
うたいながら
しゃぼんだまにいのりをこめ たましいだけは
青空にまどろんでいる
まひるの月になれるよう



よっつ

砂漠の砂でもそれでもぼくは恋をした
月が好き
がれきの化石それでもぼくは恋をした
月は話してくれました
空はとっても暗いから 明るい顔して
うたいます
わたしほんとは岩だから 明るいこころで
笑います
月のひかりはつめたいけれど
あおぐひとみにあたたかい
きみの顔
満月みたい きみの
おしりのひかり
ぼくは好き



いつつ

砂漠は砂 どこまでいっても
やっぱり砂 きみは
どこにしめりをひめてるの? どうして
花をひらくの? あなたもこどもの頃
よく泣いたじゃない そうだじゃりの頃
砂場でけんかし泣いたっけ
砂と涙で口のなか
じゃりじゃりしたっけ でもいまは
さらさら
ふたりねころび 空をみあげる
砂いろにかがやくあなたの乳房は
らくだのこぶ なめらかな
砂丘 空にむかって
においたつ
サボテンの
うつくしい花
口にふくむと
ひとみになぜだか月のひかり
おとすれたあたたかなあわだち
潮騒がきこえる
こんなさらさらのからだから
がらがらのこころから
あふれるなんて
海はしお水 やっぱりしお水
月の砂漠をはるばると
旅してきたの? 海の
潮水



むっつ(咲いた)

涸れた地に咲くサボテンのように
ふくよかなあなたの
きゃしゃなからだにぼくのこころは
ふくらむ こころの
砂漠に花が
咲くの? からだにこころは
咲くんだね
てのひらもくちびるもまるい目も乳房もみんなこころが
ひらく野原 花は
けだもの 野を
駆ける生きもの
風になびく草かげから顔のぞかせる
生殖器 生き延びてきた野の性はむかしからの
おかしな顔
髪とくちびる舌はあるけどもう目はなくしたのかな?
あなた犬とおなじね
ぼくは犬になりたい ぼくら
あんまりさかしらすぎる
あなた さかりがつきすぎてるわ
もとめあい
交わりあえるよろこびほど
すてきなものはないね ぼくは
ぼくになれる あなたを
好きなぼくを
あなたを愛するぼくを
好きになれる
野原になれる ふたり
むすばれる瞬間 野の花
ふるえる 瞬間はあるもの



咲いた(もうかぞえない)

しおれた花 ちぎれた根
ゆびさきの あなたへのびてゆく
すいよせられるうごきに
思いだしたい あなたの
しろい腕からすべるてのひら
ゆびさきはぼくの肌にくちづけ
根をひろげすいついて ひふは目をあけ
舌と舌さしかわしぼくはふたたび呼吸をはじめる
もう一度
根をはって こころに
根をのばして 波うつおと
すいあげて 花を
ひらいて
あなたのそばでもう一度
流れるおと 思いおこすから
ゆめからさめてゆびさきで思いだして
ほら
ちぎれた根はまたのびてゆく あなたの
うすいひふ ひろがる地平に根をひろげてゆく

みえる?
しおれた花が水をすいあげ顔をあげ
風に葉むらと笑ってる
きこえる?
土ふかくふるえる根が
砂つぶと水にくちづけうたってる
感じる?
ふかくからだに根づいたこころに
どうしてもすてられない 花が
うしなえない ひとが
咲いている



(いちめんの)うたの花

わたしをあなたでいっぱいに満たして
あなたのせいで わたしを染めて
せいって精子?
ばか あなたの性 あなたの
生でわたしを満たして
世界はころされるひとでいっぱい
あたらしいうぶ声もあふれているよ 忘れないで
生まれてくるいのちとおなじほど
死んでしまったかなしい生きものたちを忘れず
愛しているなら
わたしにうたって わたしも
うたう
あなたでわたしを満たして
うたの花で 花のうたで
生を満たして

こころとからだ はだかにして
はげしくもとめあえば やがて
やすらぎのときもおとずれる
胸かさねあわせて 横たわり
やすらかな静けさをすいこむ
乳房のおくにまもられた鼓動
わきあがる鼓動 あなたのいのちを
はじめて感じた おとずれてくる
かなしいおとにほほえむ わたしのおと
はじめて感じた
ふたりは
うた
みみをすませば
海にゆれ
砂漠にひらく
花の鼓動がきこえる
きえてゆく
生まれてくる
花のうたにつつまれて
あなたもわたしもゆれる
いちりんの花
こころをこえてひろがる
うた野原に
涸れることのない いちめんの

うたの花



「 うたの花 」( 了 )

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