高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』


おやすみなさい


風たちぬ、いざ生きめやも。
読むのは途中でやめたけれど
生きめやも
へんてこりんなこの響きなぜか
忘れられず わたし好きでした
息むってことば知っていますか?
生きるじゃないよ わたし知らなかった

月のひかりの明るい夜に 都会のかたすみの産院で
父親の名 あかせないこども 誰にも知られず産みました
気張りつづけて生きてきたわたしに
産婆さんの声 とてもやさしく

 ふかい息をして
 息をして 息を
 ぬいて
 すってはいてすってはいて
 ふかい息をして はい
 息んで やすんで
 息んだら やすんで 生きて
 やすんで 生きたら
 おやすみなさい

あのひとの声 おやすみって声が耳もとで
息をしました

沈んでゆきながらもうだめだと思いはじめていた
わたしにあのひとが
手をさしのべてくれた
のかそれともそばにいたあのひとの
手をむりやりつかんで
おぼれさせたのか もう
わかりません ただあのひととの
かなしい交わりの
浮き沈みを思いおこすことが くりかえしおそう
痛みをやわらげてくれました くりかえしおそう
よろこびの波 あのひとの汗 あたたかなはだ
わたし忘れません

陣痛の波まから 顔をだすと
あのひとが 月のひかりのように
ほほえみ 潮騒のようにわたしをつつみ
息をふきかけてくれました

生きることはなんだかわたしには
くるしいことみたいだけど うまくいくことないけど
あのひととすごしたくるしい時間
この子を産んだあのとき わたし
しあわせでした

この子の名は ゆらら
へんてこりんな響き 好きだけど
この子にはめいわくかな?
月のひかりと波のこども
ゆらら もうおやすみ

ね 泣きつかれたら
やすめやも
明日めざめたら もいちどゆっくり
息めやも



「 おやすみなさい 」( 了 )

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