高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』


うたをさがして


うたをなくして
やまにきても ことばは
みつかりませんでした
色あせればあせてゆくほど透きとおる
枯葉と
落葉のおとを ただ
あびていました
せせらぎは
どうして静かなのでしょう みえないのに
水ってどうしてきれいなの? ひかりは
どうしてあたたかいんでしょう
空気がおいしいなんて ことばでしか
しりませんでした

流れてゆく水のすがたを
ことばはすくいとれません
たえまなくゆれているこころのひだの
織物 つかめない
音楽のよう
まるい石をすべりおり
岸辺ちかくの小石とたわむれ
おおきな岩とぶつかり はねあがる水しぶきの
こどもたち まるで
はねくらべしてるよう くだけちって
おっきくちいさく とおくちかく 瞬間
とんで
ひかりなのか水なのか
しらせないまま水面のひかりに
かえってゆきます

空に
ことばはとどきません
あおい空 うごいてるのは雲ばかり
たえまなくちぎれる雲の
こどもたち ほつれもつれほどけては
かわるがわる
ほそいゆびさき しろい糸
綾とりしながら遊んでいます
となりでぽかんと口をあけ
昼ねしているのんびりやさん
月なのか雲なのか
うすくあおにとろけてゆきます

風のおとにふるえる木の葉を
ことばはえがけません
枝から水面へときおりおりてゆく
ひと葉ひと葉を忘れず
お別れに ほんのすこし
抱きあげてゆらめかせます
空にちかいこずえで
みおくっている葉むらたちも さえずりに
なんとなくまばたきするよう あのあたり
泣いているのは
小鳥なのか風なのか

うたをさがして
やまにきても ことばは
みつかりませんでした
落葉も小石も雲も小鳥も ことばから
とおく うつくしい
うたごえです
あのひとの瞳にうかんだ
笑いごえ にならないほほえみ
泣きごえ にならないなみだ
水とひかりと空と風に
ふるえる
うたを
愛することが
できるだけです



「うたをさがして」( 了 )

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