高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』

あとがき

かなしいけれどあたたかく、忘れられない物語がいくつもいくつも語りつがれています。この星のどこかの街でおきた、小さな出来事から、物語は生まれ、こころからこころへ手わたされてゆきます。今日もまた、ひとりひとりのこころに物語は生まれ、こころは物語を生きています。かなしみのなかにも、しあわせは生まれるけれど、こころを押しつぶすような出来事だけはおこさないよう、生きることができればと願います。
 「つるの恩返し」がわたしは好きです。羽をくちばしで一枚一枚ぬきとる姿に、すこしずつ織りあげられた美しい織物に、こめられたかなしいこころに、言葉をなくします。
 つるのような美しい羽をもたないわたしにも、出会うことのできたひととのなにげないやりとりや交わした表情、そしてちいさな生きものたちののびやかな姿や、移りかわる自然の記憶が、羽のような雪になってこころにふりつもっています。ふりしきるあわい雪をてのひらですくいとり、美しい織物にはならなくても、せめておかしい雪だるまをつくりたい、と思います。
 白鳥のうたをうたえない醜いあひるの子、おおきくなってもやっぱりあひるのままの姿を水たまりに浮かべて、それでもがあがあ、うたいたいと思います。かえるたちや、猫の恋ごころ、犬の遠吠えにまけないよう、潮騒にとどくよう。そして愛するひとたちの声、こころに響きつづけるなつかしい声、かなしい声と響きあえるよう。

 この本ができるまでお世話になり励ましていただきました土曜美術社出版販売の加藤幾惠さん、ありがとうございました。
 この雪だるまをぱてのはんちょうに捧げます。

一九九四年  高畑耕治


「 あとがき 」( 了 )

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