高畑耕治詩集『さようなら』


おり鶴の恩返し


一枚の千代紙だったわたしに
あなたをおもうあのひとが
ゆびで願いを折りたたみ
ゆびで祈りを織りこめて
わたしは鶴になれました
あなたの窓辺を訪れるひかり 小鳥とはなすあなたのこころを
空の彼方へつたえたい けれど
わたしは飛べません
窓から吹きこむ微かな風が あなたの頬にくちづけるとき
わたしに吹きこまれたあのひとの息 願いがふるえふくらんで
九百九十九のなかまとわたし
千九百九十八の羽とわたしの羽ははばたき
織りこめられた祈りをしずかにささやきます

わたしは飛べない鶴ですけれど
さびしいときにはわたしをこわして
紙ふうせんにしてください
やさしいあなたの願いを吹きこみ
あなたのゆびとてのひらでそっと
つつんでください
せいいっぱいまるく あなたのゆめの
かたちになるから 笑って

わたしは飛べない鶴ですけれど
かなしいときにはわたしをこわして
紙ひこうきにしてください
ゆびで願いを折りたたみ
ゆびで祈りを織りこめて
とおくたかく なげてください
せいいっぱいうつくしく あなたのまわりを
わたしは舞うから 笑って

わたしは飛べない千代紙ですから
からだがくずれてしまったら 笑えない
ひとりぼっちのくるしい夜に
あなたの手紙にしてください
だれにもいえないおもいはわたしにうちあけて
わたしのからだ 燃やしてください
わたしはあなたが好きだから あなたを愛するあのひとの
こころがわたしのすがただから ほんとはただの紙でしたから
あなたの痛みがわたしとともにきえさることを祈りながら
紙らしく燃えてゆきます
わたしが死んでもあなたには
九百九十九のなかま
千九百九十八の羽がはばたき
いつもそばでうたっているからわたしかなしくありません

空を飛べないおり鶴は 手紙を夜空へはこぶ小鳥
天の川は 燃えつきたしあわせな小鳥のまたたき
空を舞う願い 祈りのつらなり
さよならの息
愛するひとへのささやきだから
ときおり夜空をみあげたら
あなたの瞳にふりそそぐ
あわいひかりに 微笑んで



「 おり鶴の恩返し 」( 了 )

TOPページへ

アンソロジーB
詩の絵ほん 目次へ

詩集『さようなら』
目次へ

サイトマップへ

© 2010 Kouji Takabatake All rights reserved.
inserted by FC2 system