いけば死ぬ。
わかっていても逃げられなかった。
お母さんとわたしたちを守るには、
殺しあいへ、戦場へいくしかなかった。
殺されにいき、守ってくれた、お父さん。
ありがとう。
お父さん、教えて。
いま、どこにいるの?
殺されてもう、どこにもいないの?
どこででもいいから、もういちど、お父さんに、
会いたい。お父さんの、顔を見たい。
五つで別れた日のおぼろな顔。
もういちど、抱きあげてほしい。あの日のように、
頭を撫でてほしいの。
どんなに呼んでも、泣いても、お父さん、
きてくれなかった。
遠い南の海のどこかで、ほんとに戦死してしまったの?
痛かったの? 苦しかったの?
ふるさとのお墓にも、靖国にも、いないお父さん。
いつまでも行方不明のお父さん、
帰ってきてほしいの。
たきぎを積みあげてくれた、お父さんの優しさを、
ぼたもちに込めた、お母さんの涙を、踏みにじったお国。
たったひとりのお父さんを私から、奪ったお国、
ゆるすこと、できない。
別れの日の、ぼたもちは、どんなに悲しい味がしたでしょう。
あの日からお母さん、ずっとひとりで私たち、育ててくれたよ。
お母さんはお父さんのそばに、逝けたでしょうか?
優しかったお兄さんも闘病のすえ、亡くなりました。
お父さんとお母さんに、会えたでしょうか?
私と弟ももうすぐ、会いに逝きます。
ほんとうに久しぶり、家族そろえるね。
たきぎを焚いて、私、ぼたもちをつくるわ。
お母さんに教わった、お母さんの味がする、
あの別れの日の味がする、手のひらの味がする、
ぼたもち。
食べようね。こんどは家族五人、
もういちど、みんなで。