高畑耕治の詩


ひなの星



  かえで


今朝かわいいひなが死んでいました
わたしのひな 死ぬなんて
うじわいて
ふ臭はなち
ああ
この世のなりたち
まちがっているのでしょうか

  この子が死んだのは
  わたしのせい
  きっとそう
  ああ
  どうして
  どこへいこう
  おまえもう
  こたえてくれない

この子のなきがら やすらげる場所
さがしてわたし 夜の街なか
さまよいました
雨にアスファルトぬれ
雨つぶ街灯りにうかび
わたしを撃つのです
どこにこの子の

あるのでしょうか

  湧いては滴りとまらない
  涙 おまえに
  くちをつぐみ
  まぶたとざし
  くびをたれた おまえに

街外れ とぼとぼ
ふと
聞こえたような

 「 ここよ 」

誰?
呼んでくれるのは
身捨てられたわたしを手招いてくれるのは
枝たわませて無数の手のひら
かえでの樹でした
路地のおくに一本

 「 わたしの根もとの土にこそ
  おかえり 」

招き寄せられ触れた幹は人肌のように温かく
撫でおろしかがむと
指で土を掘り起こしました
穴に
おまえを横たえ土を
お別れの土を けどわたし

  さようなら は
  いえない

たち去れず泣いていました
幹にもたれ樹皮に抱かれこのまま
眠りに落ちてゆくのでしょうか
くずれ落ちそうなわたしを
くずれてしまう土のなかのひなを
かえでのさやぎ ささやき
くるんでくれて

 「 根を抱いて
  おやすみ
  やすめたら根毛でつつみ
  吸いあげてあげるから
  おまえのお母さん
  山鳩の お母さんもきっと
  さがしだしてくれるでしょう
  枝にとまりにきてくれるでしょう
  葉の手のひらの五つの指先にまで
  葉脈をさらさら流れて
  おゆきなさい
  お母さんきっと
  くちばしでくすぐり
  頬ずりしながら
  さえずってくれるでしょう
  もういちどおまえを
  抱いてくれるでしょう
  山鳩の子
  優しい子 おまえ
  やすらかにおやすみ
  お母さんのうた
  聞きましょう
  わたしと 」





「 ひなの星 ・ かえで 」( 了 )

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